乳がん薬物治療・HER2(ハーツー)とは?
チョイス@病気になったとき「乳がん 薬物治療のチョイス」2019年2月9日(土)20:00~20:45 NHKEテレ1東京にて放送されます。
乳がんを手術で取り除いた後、ほとんどの場合に行われるのが薬物療法。がんのタイプによる薬の使い分けや副作用対策など、乳がんの薬物治療のチョイスを詳しく紹介する。乳がんでは、手術でがんを取り除いた後、ほとんどの場合、薬物療法が行われる。このとき、がんのタイプによって効果的な薬を使い分けられるようになってきた。女性ホルモンによって増殖するタイプのがんには、ホルモンの働きを妨げる薬。HER2と呼ばれるたんぱく質で増えるタイプには、それを妨げる分子標的薬などを使う。また、抗がん剤の副作用への対策も進んできた。乳がんの薬物治療のチョイスを詳しく紹介する。
出演者
司会
八嶋智人,大和田美帆,
講師
昭和大学教授…中村清吾,国立がん研究センター中央病院…野澤桂子,
リポーター
出田奈々,
語り
佐藤真由美,江越彬紀
乳がんの薬物療法には化学療法とホルモン療法(正確には抗ホルモン療法・内分泌療法)があります。化学療法は抗がん剤を投与する方法です。ホルモン療法は、乳がんの増殖を促す女性ホルモン(エストロゲン)が体内で作られるのを抑えたり、エストロゲンががん細胞に働くのを阻害して増殖を抑制する方法です。乳がんには女性ホルモンの働きで増殖するもの(ホルモン依存性)と、女性ホルモンには反応しないもの(ホルモン非依存性)がありますので、ホルモン依存性の有無や各がん細胞の性質を調べて、化学療法、ホルモン療法のいずれか、あるいは両者を併用することになります。
HER2陽性の場合は、抗HER2薬を追加する
分子標的治療薬と呼ばれる新しいタイプの抗がん剤(抗HER2薬)が術後の治療に使用できるようになりましたので、この薬剤の攻撃目標となる乳がん組織におけるHER2タンパク質(細胞の増殖を促す受容体)の発現状況を調べて、HER2陽性(HER2タンパク質が過剰発現)の場合は、抗HER2薬を追加します。現在、抗HER2薬に続く各種の分子標的治療薬が開発されつつあります。
HER2(ハーツー)は、細胞表面に存在する約185 kDaの糖タンパクで、受容体型チロシンキナーゼである。上皮成長因子受容体(EGFR、別名ERBB1) に類似した構造をもち、EGFR2、ERBB2、CD340、あるいはNEUとも呼ばれる。HER2タンパクをコードする遺伝子は HER2/neu、erbB-2 で17番染色体長腕に存在する。また、HER2 は、human epidermal growth factor receptor (HER/EGFR/ERBB) family(EGFRファミリー)に属するタンパク質である。HER2タンパクは正常細胞において細胞の増殖、分化などの調節に関与しているが、何らかの理由でHER2遺伝子の増幅や遺伝子変異が起こると、細胞の増殖・分化の制御ができなくなり、細胞は悪性化する。HER2遺伝子はがん遺伝子でもあり、多くの種類のがんで遺伝子増幅がみられる。HER2は正常細胞では、増殖、分化、移動、生存などの細胞機能調節に関与している。何らかの理由でHER2遺伝子に増幅や変異が起こると下流のシグナル伝達経路が活性化し、がん遺伝子として働く。唾液腺腺がん、胃がん、乳がん、卵巣がん、等多くのがんでHER2の遺伝子増幅がみられる。
機能
HER2は心臓や神経の発達や維持に関与し、その他の細胞でも細胞増殖、分化などの調節に関与している。HER2遺伝子を人為的に欠失させたマウスは、心臓や神経系の発達障害により胎生期に死亡する。また出生後に心筋のHER2遺伝子発現を人為的に低下させたマウスは拡張型心筋症を呈した。同様に腸管の神経のHER2遺伝子発現を人為的に低下させたマウスは、腸管の発育不良、腸管拡張をおこし、ヒトヒルシュスプルング病に類似した病態を呈した。
HER2タンパクは受容体型チロシンキナーゼである。同じEGFRファミリーに属するHER1, HER3, HER4 は細胞外領域にligandが結合することにより3次元構造が変化して他のHER family との二量体形成が可能となる。しかしHER2に結合する内因性リガンドは知られていない。ホモ二量体あるいは活性化したEGFR(HER1)やHER3、HER4と結合してヘテロ二量体を形成しシグナル伝達を行うと考えられている。このほかHER2 shedding (蛋白分解酵素によって細胞外ドメインECDが切断されること)によって残される細胞内領域と膜貫通領域からなる95kDの蛋白断片p95も増殖シグナル活性がある。HER2 shedding を引き起こす蛋白分解酵素は亜鉛含有メタロプロテアーゼと推定されている。