『アルツハイマー型認知症』症状具体例!
きょうの健康 4つの認知症 こう治療する▽薬はどこまで効く?アルツハイマー型 が2019年4月15日(月)
20:30~20:45 NHKEテレ1東京にて放送されます。
認知症の患者数は国内で500万人以上で、その約6割がアルツハイマー型認知症。糖尿病など生活習慣病の治療が治療の柱の1つとなる。開発中の検査や薬についても伝える。
認知症患者は国内で500万人以上と考えられており、その約6割を占めるのが、もの忘れから始まるアルツハイマー型認知症。4つの抗認知症薬を使い分けることで、進行を遅らせることが可能。最近では、糖尿病がアルツハイマーの原因物質を増やしていることがわかった。生活習慣病を治療したアルツハイマー型認知症の患者は、進行がゆるやかになると報告されている。薬による治療や、開発中の新しい検査と薬についても伝える。
講師
東京医科大学主任教授…羽生春夫,
キャスター
黒沢保裕,岩田まこ都
アルツハイマー病(アルツハイマーびょう) とは、脳が萎縮していく病気である。アルツハイマー型認知症(アルツハイマーがたにんちしょう) はその症状であり、認知機能低下、人格の変化を主な症状とする認知症の一種であり、認知症の60-70%を占める。
日本では、認知症のうちでも脳血管性認知症、レビー小体病と並んで最も多いタイプである。
症状は進行する認知障害(記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、視空間認知障害や問題解決能力の障害など)であり、生活に支障が出てくる。重症度が増し、高度になると摂食や着替え、意思疎通なども出来なくなり、最終的には寝たきりになる。階段状に進行する(すなわち、ある時点を境にはっきりと症状が悪化する)脳血管性認知症と異なり、徐々に進行する点が特徴的。症状経過の途中で、被害妄想や幻覚(とくに幻視)が出現する場合もある。暴言・暴力・徘徊・不潔行為などの問題行動(いわゆるBPSD)が見られることもあり、介護上、大きな困難を伴うため、医療機関受診の最大の契機となる。
生活機能障害
生活機能障害とは日常生活上の障害である。明らかな運動障害や感覚障害を伴わないことが一般的である。従来は巣症状(失行・失認)と呼ばれた固有の局所病変に呼応する症候も含まれる。原因は主に局所性の脳障害にあると示唆されるが、脳内の広範囲な病変や複数の障害器官が関与してもよい。介護者の負担という観点からはBPSDと生活機能障害は非常に重要である。食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴といった日常生活動作も含まれる。生活機能障害という概念を客観的に評価することのできる確立した方法がない。
見当識障害
アルツハイマー型認知症の見当識障害は時間、場所、人物の順番で障害されていく。時間の見当識障害は記憶障害が軽度のうちから認められる。病変が頭頂連合野に及ぶと、頭頂連合野は視空間認知機能に関わることから、空間認識が悪くなり場所の見当識障害が認められるようになる。病変が側頭連合野に及ぶと人物の失見当識が起こる。大まかには軽症は時間の見当識障害、中等症は場所の見当識障害、重症は人物の見当識障害が認められる。
記憶障害
アルツハイマー型認知症では記憶障害のうち特に、エピソード記憶が障害されやすい。エピソード記憶には海馬と嗅内皮質が重要である。嗅内皮質は海馬と大脳新皮質を橋渡しする役目があり、記憶は海馬から嗅内皮質を通って大脳皮質に蓄えられていく。しかしアルツハイマー型認知症では早期から嗅内皮質が障害されるため、記憶を大脳皮質に蓄えることができなくなる。また帯状回後部や楔前部はエピソード記憶の再生に重要な部位であり、この領域の障害によって思い出すことが困難になる。このためアルツハイマー型認知症では記憶の記銘と想起の両方が障害される。エピソード記憶の中でも最近の記憶である近時記憶の障害が先に現れることになる。
症状としては「予定をすっぽかしてしまう」、「昨日食べた食事を思い出せない」、「思い出すのに時間がかかるようになった」、「物の置き忘れ」、「最近の出来事自体をまるごと忘れる」といった症状が先に現れる。即時記憶、遠隔記憶、手続き記憶は早期には保たれる。
HDS-RやMMSEでは即時再生はは保たれ、遅延再生での失点が早期から目立つ(5物品、4桁逆症など)進行するとやがて遠隔記憶、手続き記憶も失われる。
言語障害
言語障害(失語)は頭頂連合野に関連する症状のひとつである。左半球側頭葉頭頂連合野へ広がる病変に対応して、自発話においてまず喚語困難、呼称の障害が目立ってくる。「あれ」などの指示代名詞が多用され、名称が出てこなくて用途などで代用する迂回表現がよくみられる。
理解と復唱は比較的よく保たれ、自発話では流暢で構音も保たれ、健忘失語(語健忘、失名辞)に近い失語になる。進んでくると語彙の減少に伴い話の内容は具体性に欠き、唐突に自発的に今の話題とは無関係な話を切り出し、割り込む。
記憶障害も手伝って何度も同じ話のくだりを繰り返すようになる。聴覚的理解の障害が進むと超皮質性感覚失語様の言語障害へと変化していくこともある。
同時に読解や書字も障害され、病状の伸展に伴いウェルニッケ失語に似た失語に進む。高度のアルツハイマー型認知症となる頃には発話は減少していく、話しかけると復唱が割合保たれていて、こちらが話しかけた短い言葉をそのまま復唱し、末尾だけ「を食べています」、「しています」などの会話になる。さらに進行すると発話もほとんどなくなる。
視空間認知障害
視空間認知障害は頭頂連合野に関連する症状のひとつである。頭頂連合野への病変の拡大により複数の対象物の位置関係あるいは対象と自身との関係、空間の中での自分の位置関係の把握が難しくなる。
診断基準では具体的に物体失認、相貌失認、同時失認、失読を含む空間認知の障害をあげられている。図形模写は重ねた五角形は模写できても立方体模写が難しくなる。
また位置関係、奥行きの感覚も障害され、車庫入れ、冷蔵庫の中への食品の詰め込み、両手指で作る鳥の形の模倣などから異常を推察することもある。中期以降は地誌的記憶障害、道順障害などがみられる。
また着衣ではベストなど袖のない服などの袖通しに躊躇し、ズボンのポケットを頼りに前後上下を決めて履くなど、前後左右、表裏の認識が困難になる。症状が進むと、遂行機能障害が加わり、冷蔵庫など内容が外から見えないと中に食べ物が入っていることがわからなくなり、食べ物がないと探して歩いたり、住み慣れた家の中でも迷う、玄関から出ると家に入れない、トイレにたどり着けずに排泄といったような顕著な生活障害を呈する。
遂行機能障害
遂行機能は目的を持った一連の行動を自立して有効に成し遂げるための機能である。手段的日常生活動作(IADL)との関連が深い。
診断基準では具体的には推論、判断、問題解決能力の障害が挙げられている。
前頭前野の病変の拡大により、目標の企画、計画の立案と実行、結果を判定し自身の行動を調節するこれら遂行機能が失われ、遂行機能障害が起こる。
早期には日常動作の段取り・要領の悪さで始まるためあまり目立たたない。作業が遅くなったと周囲が感じている程度のことが多い。進行すると得意とする作業でも失敗する。本人からの聴取は困難になってくる。例えば和裁の失敗をするようになっても本人は「もう縫う必要がないからやめた」と言い、料理の失敗は「あまり食べないので作らなくていい」といった発言をする。行為そのものが単調になるが、やがてそういった行為自体を行わなくなる。家族から「そういえば昨年から漬物を漬けなくなった」といったエピソードが聴取される。ガスからIHに替えるとすぐに使わなくなり、レンジのスイッチが押せなくなり、やがて毎日使っていた炊飯器のスイッチも押せなくなる。セルフケアにもその障害は及ぶ。行為は比較的早期から障害されやすい。
精神症状
アルツハイマー型認知症の病期によって目立つBPSDは異なっている。比較的病初期からあるいは先行してうつ(20〜40%)、意欲の低下やアパシー(40〜70%)がみられる。
うつは悲壮感や自責の念が強くみられないのが特徴である。軽度認知障害(MCI)でのうつ症状の存在はADへの移行を予測できる臨床的マーカーであることも報告されている。うつ病の既往や家族歴はアルツハイマー型認知症を中心とする認知症の危険因子とされている。妄想、焦燥も早期のアルツハイマー型認知症でよくみられる症状である。
身近なものを盗られた(物盗られ妄想)、家族が自分を追いだそうといじわるしている(迫害妄想)などが主たる介護者に向けられる。
また診察室で座っていられない、診察室で付き添いの家族に対して大声をあげるなどの焦燥、興奮も初期から認められる。 この他、徘徊、不穏に代表されるような異常行動や睡眠障害も初期から中期かけて増加する。
幻覚・幻視は初期には数%程度と少ないが中期移行ではしばしば認められる。また幻覚は肺炎や周術期に伴って高齢者ではしばしば認められる。