村上祐資(むらかみ ゆうすけ) 模擬火星基地
又吉直樹のヘウレーカ!「“狭い空間”でも居心地よくなりますか?」が 2019年2月28日(木) 24:30~25:15 NHKEテレ1東京にて放送されます。
息も詰まる狭く閉鎖的な空間で、果たして人は心地よく暮らせるのか?そのヒントが南極の昭和基地と火星居住模擬実験にあるという。これで三畳一間もバラダイスってホント?「極地という“厳しい”環境にこそ人間の住まいの本質が現れる」極地建築研究家の村上祐資さんは、過酷な体験を通して考えてきた。アメリカユタ州の砂漠で80日間過ごした「模擬火星基地」での居住実験。南極観測隊員としての越冬経験。閉ざされた空間の中では、いかに選び抜かれた者でも精神の安定を失うが、ちょっとした工夫で「人間らしさ」を取り戻せる。継ぎ足しを重ねながら維持されてきた南極の昭和基地にその知恵を探る。
又吉直樹,
極地研究家…村上祐資,国立極地研究所南極観測センター設営業務担当マネージャー…樋口和生,
吉村崇
《模擬火星基地基地》 米国ユタ州の砂漠にある居住施設では、これまでに1000人以上のクルーがミッションをこなしてきた。ここは人間が火星で暮らし、仕事をする際に体験すると想定される環境を模した施設だ。
クルーは宇宙服を着なければ施設を離れることができず、外部の人間との通信には20分間の遅れが生じる。水は限られた量しか使えず、新鮮な食材はほぼ存在しない。 この種の実験において研究の主眼となるのは、人間の生理機能が火星環境の過酷さにどのように適応するかといったことではない。火星環境を模しているとはいえ、重力を小さくしたり、空気をなくしたり、有毒な土壌を再現したりすることはしょせん不可能だからだ。そのため模擬火星ミッションでは、外界から遮断された荒野に暮らすことで人間の心理や行動がどのような影響を受けるかが、研究の中心となる。
〈村上祐資さんの話より〉
水が足りない!—「不安に持っていかれ」パニックに。
大きかったトラブルは、水が足りなくなったこと。その時メンバーはどうしたか。「めちゃくちゃ議論が始まるんです」。7人の国際メンバーは3年間の選抜を経て選ばれた人たち。「どちらかと言うとありきたりの日常では満足できない。問題があっても解決できる、つまり不可能を可能にしようとする」(村上さん)。だから水があと10日でなくなりそうになった時、「しょうがないね」と流したり、「とりあえず各自が節約して数日したら状況見て考えよう」と行動に移したりせず、まず議論を始める。そして全員に適用するルールをきっちり決めようとする。
ユタ州の模擬火星基地。(提供:村上祐資氏)
火星基地内部には一人当たり約2畳の個室スペースもある。(提供:村上祐資氏)
水を何に優先的に使うのか。飲み水か、調理か、トイレか。だが正解はない。「食器をなるべく洗わないで拭くだけにしよう」と言えば、「そんなことをしたら菌が発生して感染症になる」と誰かがいう。問題を洗い出す能力が高いが故に、起こってもいない不安に対して過剰に反応してしまう。「一人が不安からパニック気味になると、自分は何が起きてもパニックにならないと思っていた人たちも不安を誘発され、気持ちが持っていかれてしまうんです」(村上さん)。
足りなくなるのは水だけではない。例えばインターネットの容量についても一日あたりの制限があった。それぞれ、ふだんの生活に比べれば節約している。しかしネットは何に容量が使われるか見えにくい。ネットを閲覧するだけで思っているより多くの容量を消費することもある。こんな時、厳しい選考で選ばれ、自信を持っている人が陥りがちなのが「自分じゃない」という罠。何か問題が起こった時に、自分が原因かもしれないという可能性を排除して、自分以外の人や環境のせいにしてしまう。「自分が不完全だと思っている人のほうが健全ではないか」と村上さんはいう。
昭和基地は、南極圏内の東オングル島にある日本の観測基地。南緯69度00分22秒 東経39度35分24秒、標高29.18m。基地の名称は建設された時代の元号「昭和」にちなむ。リュツォ・ホルム湾の東岸に位置する。
南極にある日本の基地
気候
昭和基地 の気候
月
1月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
10月
11月
12月
年
最高気温記録 °C (°F )
10.0
(50)
8.0
(46.4)
3.6
(38.5)
0.5
(32.9)
2.8
(37)
−0.7
(30.7)
−2.5
(27.5)
−2.8
(27)
−1.1
(30)
−0.6
(30.9)
7.3
(45.1)
9.4
(48.9)
10.0
(50)
平均最高気温 °C (°F )
2.0
(35.6)
−0.5
(31.1)
−4.3
(24.3)
−7.6
(18.3)
−10.7
(12.7)
−12.1
(10.2)
−14.1
(6.6)
−15.8
(3.6)
−14.9
(5.2)
−10.8
(12.6)
−4.0
(24.8)
1.1
(34)
−7.6
(18.3)
日平均気温 °C (°F )
−0.7
(30.7)
−2.9
(26.8)
−6.5
(20.3)
−10.1
(13.8)
−13.5
(7.7)
−15.2
(4.6)
−17.3
(0.9)
−19.4
(−2.9)
−18.1
(−0.6)
−13.5
(7.7)
−6.8
(19.8)
−1.6
(29.1)
−10.4
(13.3)
平均最低気温 °C (°F )
−3.7
(25.3)
−5.5
(22.1)
−9.2
(15.4)
−13.0
(8.6)
−16.6
(2.1)
−18.7
(−1.7)
−20.8
(−5.4)
−23.3
(−9.9)
−22.0
(−7.6)
−17.2
(1)
−10.4
(13.3)
−4.6
(23.7)
−13.7
(7.3)
最低気温記録 °C (°F )
−12.6
(9.3)
−18.2
(−0.8)
−25.2
(−13.4)
−35.9
(−32.6)
−40.5
(−40.9)
−38.3
(−36.9)
−42.7
(−44.9)
−42.2
(−44)
−45.3
(−49.5)
−34.7
(−30.5)
−25.0
(−13)
−12.9
(8.8)
−45.3
(−49.5)
平均降雪日数 (≥ 0 cm)
11.0
14.2
19.3
20.1
18.5
17.2
18.9
19.3
18.2
20.2
13.9
10.7
200.6
% 湿度
67
68
71
72
67
65
66
64
64
69
68
68
67
平均月間日照時間
375.7
203.2
120.1
58.0
17.7
0.0
4.8
64.1
136.5
191.0
316.0
434.6
1,925.9
出典: 気象庁 (平均値:1981年-2010年、極値:1957年-現在)
氷雪気候 に属し、1年を通して平均気温は氷点下である。昭和基地における観測記録上の最低気温は-45.3°C (1982年9月4日)、最大瞬間風速は61.2mである(1996年5月27日)。(2011年12月時点)1967年(昭和42年)~1968年の第8次南極地域観測隊が、北海道からヤナギ の木を実験的に移植したが、数年で枯死した。枯木はそのまま放置されていたが、2011年(平成23年)~2013年の調査で、41本の幹(枝)から表面殺菌法により菌類 を分離した結果、43菌株が分離された。いくつかの菌種は土壌から検出されており、南極土着の菌種であることが示唆されたという。
作品
ドキュメンタリー 番組では単発・連続それぞれで何回も取り上げられる為に、ここではドキュメンタリー番組以外の娯楽作品に絞って記す。
1978年生まれ。南極やヒマラヤなど、極地とよばれる厳しい環境にある美しい暮らし方を探すために、様々な極地の生活を踏査してきた。
2008年には、第50次日本南極地域観測隊に越冬隊員として参加し、昭和基地に15ヶ月間滞在。
The Mars Societyが計画を発表した長期の模擬火星実験「Mars160」では副隊長に選ばれ、2017年には、地球にある二つの模擬火星環境、米ユタ州ウェイネ砂漠のMDRS基地および北極圏デヴォン島のFMARS基地で計160日間の実験生活を完遂した。続く2018年のMDRS Crew191 TEAM ASIAでは隊長を務めるなど、これまでに積み重ねてきた極地での生活経験は1000日を越える。
「極地建築家」建物を外形的・技術的にデザインするのが所謂「建築家」なら、彼が追求するのは建物の中で営まれる人間の暮らし。これを根っこから支え、豊かにするものは何なのか。そんな「暮らしの原点」を探るため、さまざまな極地に身を置いてきた。「小学生の頃に数年間、父親の仕事の都合でアメリカに住んでいたことが影響しているのだと思います」と、村上さん。
米ユタ州の砂漠地帯を「火星」と仮定した実験が行われている(村上さん提供)
村上 祐資(むらかみ ゆうすけ)
極地建築家
塾員(平16政・メ修)。2008年第50次南極地域観測隊に越冬隊員として参加。2017年模擬火星実験Mars160での160日間の実験生活を完遂した。